僕の頭の中~文房具ライターの秘密~

文房具ライター:猪口文啓の頭の中(考えたこと、考えていたこと、秘密にしていたことを紹介します)

水色とオレンジ色と黒い線

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子供の頃には、早く起き出して砂浜で大きな絵を描いて楽しんでいると時間を忘れることが出来た。砂浜は無限なので、普通の画用紙に描く何百倍もの絵を描くことが出来た。本当に便利で優雅な時間だった。夏休みの大半をそうやって過ごした。

無心に砂浜に絵を描いていると不思議な貝殻を見つけた。二枚貝の片割れのような形をしているがとても柔らかかった。そして叩くと固くなって異様な金属音を奏でる今まで見た事のない貝殻だった。僕は弟に自慢したくてポケットにいれて持ち帰った。

家に帰ると、その貝殻はなくなっていた。絶対にポケットにいれたはずなのに探してもなかった。おかしなことがあるものだと思ったけど、あきらめて昼寝をした。でも、妙な耳鳴りがしてなかなか寝付けなくて、さらには悪い夢をみた。

その日を境に砂浜に線を引くと3種類の線が引けるようになった。「水色」「オレンジ」「黒色」の3種類の線だ。その色合いはとても淡くて僕にしか見えないみたいだ。試しに弟に「見えるか?」と聞いてみたら「何が?」と言われた。

何日か練習しているうちに、この3種類の色の出し方のコツがわかった。普段は僕の体から「オレンジ」が出る。そして、ちょっと調節して力を倍くらいにして描くと「黒色」そして悲しみの感情を混ぜて描くと「水色」になった。

でも色がついている線を描いていると、とても喉が渇いてきて、たくさんの水を飲まなくてはやっていられないこともわかった。そして水を飲み終わると食事の時間さえ忘れて深い眠りについた。背中が妙に痛かったが水を大量に飲んだせいだと思っていた。

「黒色」は、すべてのことを遮断が出来た。「オレンジ」は、相手の感情が文字化して伝わってきた。「水色」はそれに接した人の大雑把な未来が画像として伝わってきた。大変疲れてしまうので、僕は自分の周囲に「黒色」をぐるりと描き続けてその中で引きこもって生きていた。

学校に行った時に、いつも無機質な授業しかしない学校の先生の心が覗いてみたくて授業中に「オレンジ」を使ってみた。するとそこにはおぞましいの憎しみの言葉が生徒に向かって叩きつけられているのを見て心底驚いた。彼は正常な人間ではなかった。

僕は「オレンジ」を使って彼女の心を文字化してみた。そんなに好きではないけど、一人でいるよりはずっとマシだから、一緒にいてやるか。という文字が細く長く何度も僕に向かって伸びてきた。僕も薄々気がついていたので、決心して別れて自由になった。

「水色」を使い過ぎると頭がおかしくなりそうだったので、長い事封印していた。だけど唯一僕の秘密を知っている隣のばあちゃんが「寿命がいつ尽きるのか教えろ」と言ってきたので、最後だと念をおしてばあちゃんに使った。それ以来使っていない。

ばあちゃんは別に何をするわけでもなく、普通に過ごして煙草を吸っていた。もうそろそろという時になっても贅沢するわけではなかった。「ばあちゃん、良いのか?」と聞いても、もう僕のことなんか眼中になく過去の世界に浸っているように笑っていた。

ある時僕の大事な空間に女の子が乗り込んできた。「自分のやっていることがわかっているの?」と、全てを知っているかのような勢いで胸ぐらを掴んで詰め寄ってきた。僕には抵抗する術がなかった。さらにはそのエネルギーも残ってなかった。

その時には「黒色」しか使っていなかったのだが、すべての線を封印されてしまった。お尻の肉の一部となって僕に寄生していた海で拾った貝殻も蹴り潰されてしまった。蹴られたところが1週間くらい痛かったが、不思議なくらい何も残らなかった。

その子とはそれからずっと付き合いがあるが、不思議なくらい何も感じない。キスをしたり、体を重ねたりもするが定期的に検査にくるような意味合いらしいのだ。僕は何に監視されているのだろうか?この部分は僕の世界を超えているのでわからない。

でも、最近そういう「線」を書いている子をよく見かける。僕が注意すればいいのだろうか。注意しないと数年も経たないうちに寿命が尽きてしまうのに、何も知らずに「水色」を無尽蔵に書き続ける子になんと諭したらいいんだろうか。

もう少しでこの世界の仕組みがわかりそうなところまで来た。
もう少しで謎が解き明かせるところまで来た。そこは実感しているので努力したい。
そうなった時に自分は何をするのか、そこも分かると思う。